002 ホンコンやきそばが好き

『最強の友(冷やご飯の)』

1.

 ホンコンやきそばが好きだ。

 生まれは関東ペヤング育ちで、ホンコンやきそば自体に聞き馴染みのない貴兄もいらっしゃるだろう。

ホンコンやきそばは、スパイスなどでお馴染みS&Bから、北海道と九州の一部だけで販売されているインスタント焼きそば(袋麺)のことだ。

 

 北海道出身者の中でも「これがホンコンやきそばって言うんだ」ぐらいのあいまいな認識の人も多いので、まずはパッケージを見て頂きたい。

ホンコンやきそば - Google 検索

 その鮮烈な赤のパッケージには、今日び珍しいTHE・ステレオタイプな中国の料理人が書かれている。あの牧歌的なストーリーの絵本、『ちびくろさんぼ』が人種差別的だと規制されはじめている現代では考えられないデザインであるが、そこに昭和という時代の寛大さの名残が感じられる。(平成生まれが知った風な口を聞いてすみません)

そのステレオタイプなキャラクターデザインのみに飽き足らず、そのコック帽には「中華コック長」と書かれている。ここまで説明しないと伝わるか不安だったのだろうか。過剰な親切さが愛おしい。

 

2.

 ホンコンやきそばの最大の特徴として、その調理法が挙げられる。

大多数のカップ焼きそば・袋麺のインスタント焼きそばは「お湯を入れ3~5分待って捨てる・あるいは熱したお湯を蒸発させて水を切って」から、「麺に対して別添の袋に入ったソースをかける」が一般的だろう。

 

 しかし、ホンコンやきそばには別添のソースはなく、「麺自体に濃い目に味が練り込んであるので、フライパンに敷いた熱湯でふやかしながら、適度に味を薄めて食べる」という調理法である。

このふやかすための水加減が非常に難しく、初心者の頃は、多めに水を入れてしまい味気ないブヨブヨの麺になってしまったり、逆に水が少なすぎてパサパサになってしまったりということがある。

 水加減がちょうどよくても、水が程よく蒸発したタイミングでフライパンから引き上げないと、フライパンにくっついてしまって麺をロストしてしまったり、逆に下にちょっとホンコンやきそば味の水が残ったまま皿に盛ってしまったりということが、ままある。

 しかも、水加減が多すぎて途中で水を捨てて調節しようと思っても、「麺に味が練り込んである」ので水を捨てること=味を捨てることに等しく、結局最初の水の分量が最重要となってくる。(水を足すことは可能なので、最初は少なめが吉)

 

 更に、使用する鍋・フライパンのチョイスも重要で、くっつきやすい中華鍋などはロストの罠に自ら飛び込んでいくようなものなので、くっつかない加工がされている鍋・フライパンが望ましい。

 生まれも育ちも北海道だったため、10歳の頃からホンコンやきそばを愛好し作り続けていたが、数多の失敗を繰り返してきた。

10歳のころは、「実家にあったくっつきやすい中華鍋+めちゃくちゃ少ない水加減」という、登山で言えば「30cmのピンヒールを履いて悪天候の日にウェストポーチ1つで富士登山」ぐらい最悪のコンディションで作ってしまっていたので、麺全体の70%はフライパンにくっついて救出不可能というぐらいロストしていた。

チューリッヒホンコンやきそば保険があれば、30歳にはあのロスト分が大量に帰ってきて1LDKの一室を埋めているだろう。そのぐらい作っては食っていた。ロストしてろくに食えてないから、一回に2食とか作ってた。本当にもったいない。

 

 作ってはロスト、作ってはロストの日々を過ごしていた小学生の肥満児を救ったのは実の父親だった。

そもそも、ホンコンやきそばの存在を知ったのも、父親がいつも家で酔っ払い、シメで食べているホンコンやきそばを「食うか」とぶっきらぼうに差し出してくれたのがきっかけだった。

親父はその道(ホンコンやきそば道)の最も身近なプロで、フライパンにくっつくことはおろか、水加減すら失敗しているところを見たことなかった。それぐらいいつも均質で絶妙だった。

 その日から、親父に使用する鍋のチョイス・水加減を徹底的に教わった。映画ベストキッドであれば師弟の特訓シーンに当たるところだ。父親とはそれ以降疎遠なので、ホンコンやきそばの作り方、自転車の乗り方、スライダーの投げ方しか教わった覚えがない。

 

 “特訓の甲斐+青年以降の自助努力”にて、今では水加減についても鍋のチョイスについてもほとんど失敗することはない。鍋については、ずっと使っている手鍋があり、これを愛用している理由の何パーセントかはホンコンやきそばがくっつかないからだ。

新しい鍋を買っても、必ずホンコンやきそばがくっつかないかはMy検査項目に入っている。そこでくっついてしまう鍋とは自然と疎遠になる。

 

3.

 作るときの流儀として、水は正規の200mlではなく220mlぐらいを心がけている。最近は目分量で直にいけるようになった。

 そして麺を投入後、最初は上手くふやけるまで一切麺を触らない。片面がふやけたら、裏面にひっくり返してまたしばらく触らず待って、いい感じにふやけたら一気にかき混ぜるのが麺がぶつ切りにならないコツだ。

 最後、水がちょっと残っているタイミングでゴマ油を1回し入れる。ここでかき混ぜながら蒸発するかしないか!?の、絶妙なタイミングの見極めて皿に移す。ゴマ油の奥義は老師が教えてくれた。スライダーの投げ方は、硬球に指の位置が色付けでガイドしてある『松坂大輔の魔球ボール』みたいなやつで覚えたことを今思い出したので、自転車とホンコンやきそばしか教わっていない。

 

 サイドメニューとして、前日に炊いて残っていたデンプンが変質しきっている冷やご飯があるとかなり良い。

出来れば固めに炊いてあるやつ。これが、出来たてアツアツでゴマ油を含んだホンコンやきそばにとても合う。炊きたてご飯より冷やご飯党の僕が思う最強の冷やご飯の友だ。本当に出馬しようかな。

 袋に添えてある「ふりかけ」という名のゴマとアオサはもちろん全部かける。スパイスが足りなければ白コショウをお好みで。そして、ふりかけの中身はアオサであって、たこ焼きで使う青のりとかは合わないことが多いので、青のりが家にたまたまあっても足さないほうが風味を壊さない。

 

 味についてここまで触れていなかったが、煮干し・ポーク・昆布・サバ削りぶしエキスをふんだんに使った唯一無二の風味で本当に美味い!!!!!ここにゴマ油が入ることで、まさに五味一体で最強になる。

ホンコンやきそばみたいな料理、ホンコンやきそばしか食ったことないんだよな。だからまた食っちゃうんだよな。いつか一流のシェフがアレンジ込みで本気で作ったホンコンやきそばを食べてみたいものだ。

 

 ここまで、冗長と思われるほどホンコンやきそば愛を語ってきたが、移住後ホンコンやきそばを一切食べられていない。

一度、川崎駅地下のアンテナショップで見かけたが130円したので見送ってしまった。自分で買うときは、スーパーで70円ぐらいで売ってたイメージなので…今思えば買っておけば良かった。

最後に、僕の欲しいものリストです。

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