014 職人気質が好き <起>

『夏の勝新太郎(略して夏新)』-1-

 

1.

 一部の人は身をもって体感し、誰もがご存知の通り、今年の夏は酷暑だった。返す返すも酷暑だった。

35℃越えは基本、37℃なんて日もあった。そんな酷暑の真っ只中、酷暑のメッカ・爆心地・本拠地・ゆかりの地・聖地・ロケ地・司令本部・中軸・母体・どてっ腹・総本山である関東に引っ越してきた。

 引っ越した当日は、電気と水道だけが通っていて、ガスの開栓はまだだった。家具の運び込まれていない部屋で、最低限の設備を整えるために日中は外をあるき回り、汗だくになりながら、ガスの開栓まで2日間風呂のことばかりが気がかりだった。一日は銭湯に行き、もう一日は我慢しようか、と思っていたが耐えきれず入った水風呂は全く問題なくむしろ銭湯よりおあつらえ向きだった。

 

 それまで落ち着かなかったが、ガスの開栓と時を同じくして家具も運びこまれ、前の部屋でお香を炊きまくっていたために前の部屋の匂いがハチャメチャする家具で、家中の香りが以前まで部屋の匂いになり、一気にホーム感が増した。(お香のせいで、たばこも吸わないのに前の部屋の退去時壁紙の交換代が6万ぐらいになった。みなさんもお気をつけください)

配置を決めて、細かい調整をし終わり、これで全て整ったと思ったのだが…

 

2.

 エアコンが壊れた。厳密に言うと動作はするのだが、動作中ずっと壁伝いに結構な量の水が垂れている。これには困った。

管理会社に連絡したところ、「こちらの確認不足。初期不良として無償対応する」とのこと。

 築年数が25年とまあまあ古いこともあり、その後も入居から数日で、水道の水漏れ・靴箱を一回開けたら開いた後ドリフみたいに全部壊れるなど、いろいろな初期不良に見舞われていたし、そもそもハウスクリーニング済とされていたのに、うっすら床全体がざらついていたりデカめのゴミが落ちていたりした。この辺もよくあること、として一つ一つを連絡してこなしたり自力でなんとかしたりしていた。洗面所と壁の間に大量のホコリとか使用済み歯ブラシが落ちていたことだけはかなり参った。自力でなんとかなった。

 

 管理会社からの連絡は一週間以上来なかった。その間、地獄のように寝苦しかった、と思いきや、幸い2つの部屋にエアコンがあったので片方のエアコンを全開にしながら暮らすことで難をしのいだ。

しかしながら、備え付けのものに不良があるのは心もとないので何度か連絡を続けた。東京の管理会社について、よく対応が遅いということを聞くので、大同小異みんなそうなのだろうと思う。 自分だけの悩みではない、と思うと気楽だった。

あちらにも事情があるのはわかっているので、一応忘れられないように連絡をしつつ、のんびり待っていた。

 

3.

 一度目の連絡から2週間ぐらい経って、最初に来たのは製造元のサービスマンだった。

サービスマンが来た当日、なぜか不具合が再現せず(PCのソフトっぽい言い回し)水が一切漏れなかった。試しにペットボトルから、エアコンの中の排水レール(?)みたいなところに水を流したが、特に水が漏れる様子はなかった。

 「また症状が起こったら管理会社さん通じて連絡をください。」と言われその日は終了した。

 

 その数日後、また症状が発生し、管理会社を通じて連絡→しばらく音沙汰なし→再度連絡→新しい修理業者が来る、という流れをもう一回やった。そこでも業者が来た途端に、水漏れの再現性がなくなった。

更に三回目に同じ流れをやった際も、業者が来る直前になって水漏れがなくなり、もはや「本当だってば!……さっきまでそこに居たんだ!!間違いねえ、あれはUFOさ!!!」という、世界まる見えとかに出てくるアメリアリゾナ州のポテト農家の人の妄言のようになってしまったが、事前に写メと動画を撮っておいてそれを見せることで信じてもらえた。

 

 三回目はサービスマンが二人がかりで来て、エアコンの外蓋を外して壁の中から室外機に繋がる排水ホースまでチェックしてくれた。

 その人曰く、

 「室外機側のホースの直径と、エアコン側のホースのサイズが合っていないと思う。合っていないのに、無理やりテープでつなげてるし、しかもホース自体が割れている。

普通はこういうことはしない。大家さんが相当、ずさんにやっているのではないか。部品がなく今日はどうにもできないんですが、応急処置的に止めて漏れないようにはしておきました。

 別の業者が入ると思うので、管理会社からの連絡を待ってください」と言われた。

 

 ひとまず謝辞を述べて連絡を待った。

そして、水はその日のうちに漏れた。なるべくエアコンは使わないようにしていたのだが、あまりの熱帯夜になると、ずっと使用を控えておくことはできず時々稼働していた。

 そのうち、エアコンから漏れた水が知らず知らず染み込み、新品だった畳の一部がカビて来た。カビは流石にきついなあ、と思いながらも、出来ることは次に来る業者に期待すること以外になかった。

 

(次回に続きます。)