020 知らない駅で降りるのが好き

『知らない風景』

 

1.

 家から片道2時間かけ、2回乗り換えをして、バスも乗り継いで知らない駅に行った。

知らない駅に行く間の風景は、もともと風景を見ながら音楽聞くフェチ&風景見ながら何もしないフェチなので、かなりずーっと何もしないで見てしまう。

幼い頃から「じっとしていなさい」と言われたらじっとしていることが特技だったので、見知らぬ風景というキラーコンテンツを目の前にしてじっとしていることはあまり苦にならない。

 

 知らない駅について、知らない街を歩いて、したことないことをするのはどんな街でもかなり刺激的だ。刺激に飢えているのか、あるいは心の中の刺激のコップが簡単にいっぱいになりやすいたちなのかもしれない。

1日じゅう歩き回って夕方に帰り始めた。

 

 帰りの電車を調べると「30分待って、行きとは違う湘南新宿ラインに乗って帰るのが吉」と、乗り換え厄除け大師みくじ、もといgoogle mapで出た。

行きと帰りで最適な路線が違ったりすることも、田舎生まれ、もとい母の女性器生まれの自分からすると不思議だと思う。

 

2.

 30分知らない駅をウロウロして時間を潰そうとした。

「どんなことでも工夫次第でキラーコンテンツ」がモットーの僕は、その地方の銘菓の試食品を食ったり、この地域のスーパーはどういう品揃えなのかと興味深く見ているだけで結構な時間を潰すことが出来る。

 

 30分しかないので、他に興味を持つものがあった場合のために備えて、ほどほどに、10分ぐらいして店を出た。

すると、南口へ出る連絡通路の間にストリートミュージシャンが居た。

個人的にあまりストリートミュージシャンの人は苦手としていて、明らかにやってはいけない場所でやっている、人の曲を自分の曲のようにアーティストっぽく歌っているところに引いてしまう。(もちろんそうではない人もいるとは思うが)

 

 そのストリートミュージシャン、年の頃は30代後半~40代。フチ無しのメガネと、頭に竹原ピストル、またはかつての松本人志のようなタオルを巻いている。

基調は黒であろうアコースティックギターに、始めてギターを手にした高校生によくある、シールをめちゃくちゃギターに貼りまくっている様子が見られる。

 

 合わせて、恐らく白いポスカで自分の影響を受けたアーティストの名前を書きまくっている。

THE BLUE HEARTS』に始まり、『ラモーンズ』(カタカナ)、『THE STAND UP』と書かれているのが見えた。

その中に『深夜高速』と上下逆さまに書いているあたり、特にアーティスト縛りというわけではないらしい。『フラワーカンパニーズ』、ではなく『深夜高速』というところが凄い。「『深夜高速』を上下逆さまで書いているということは『早朝下道』」みたいな、なぞなぞ的なひねりなのだろうか。

 

 ギターのヘッドにはアンパンマンの全身像のシールが貼ってあり、ヘッドからゴン太くんの15cmぐらいのぬいぐるみがぶら下げてある。

更に、ギターの側面に付箋が2枚貼ってあり、見間違いでなければそこには「ラーメン」「パクチー」と文字が並んでいて、「ラーメン」の方にボールペンで、強めの筆圧の赤マルがグルグルと何重にも書かれている。

その付箋含めて、ギターの前面に殆ど余白はなかった。

 

 どの地域のどの駅でも見慣れない出で立ちでスタンスだった。ある種オンリーワンの歌が聞けるのかも知れない、あるいはただただ順当にヤバイやつか。と頭の中で思った。

 

 付箋は今日やる曲目リストなのだろうか。と思っていると、床においてあるバインダーを開き、その中からパラパラと曲をチョイスし、大きめのハーモニカの音とともに、長渕剛の『乾杯』が声高らかに始まった。

ラーメンとパクチーは曲名ではなく、単純に好きな食べ物を戦わせた結果なのだろうか。ラーメンとパクチーでは、その時のお腹の減り具合によってはパクチーの分が悪すぎる。

 

3.

 めったに聞かないが、時間もあったので、その様子を立ち止まって遠巻きに聞いていた。歌は、いでたちのとおりであった。気持ちよさそうなアーティストの顔で歌っていた。

曲と曲の間に、子どもやおじさんが彼に話しかけたりしていた。

 

 そうこうしているうちに、高橋優の『福笑い』が始まった。

愛着のある方には悪いのだが、この曲を歌う人は12割ヤバいやつだと思っているので、スパイ映画だったらビンゴ!!と叫んでいただろう。そして、ストリートミュージシャンの2450割が歌っている印象がある。

「きっと世界の共通言語は 英語じゃなくて笑顔だと思う」の歌詞・主張が、駅の連絡通路に高らかに響いた。

 

 その曲が終わると、一人の外人さんが立ち止まり彼に話しかけた。

英語で話しかけられたらしく彼は、

 

 「Hello!!」

 

と元気に英語で話し始めた。

世界の共通言語はやはり、笑顔ではなく英語だったらしい。

その食い違いに僕が笑顔になった。

 

 知らない駅に降りるとこういう些細だけど良い出来事を見つけられる。

もし何も見つからなくても、趣味で撮ってる街中の電光掲示板の動画のイイヤツを1個は見つけられる。

時間さえあれば知らない駅に降りて、全くあてもなく散歩したい。できれば友達と。一人でも楽しい。