035 人の趣味の選択・思いつきの話を聞くのが好き <上>
『母親の選択・思いつき』 -1-
1.
先日所用で母親から電話があり、その後30分ほど喋った。あまり家族と連絡を取り合うことはないので、珍しくかなり長く喋ったほうだ。
きょうだいの近況の話や、数日後に町のイベントで久しぶりに東京に来るという話を聞いた。その電話の最後に「最近、私も趣味を始めてね」と言い始めた。
その趣味は、マージャンとのことだった。
自分はマージャンのルールはわからないが、近年飲まない・賭けない・吸わないの”健康マージャン”が流行していて、ボケ防止やお年寄り同士のコミュニケーションとして流行っていると聞いている。
流行りに乗って健康マージャンを始めたのかな、と思ったが賭けないし、もともとタバコを吸わないが、飲みまくってはいるらしい。
それでもマージャン仲間は20代から70代まで幅広くいて、週何回も卓を囲んで、合間に料理を振る舞ったりしているそうだ。
60代を目の前にしてボケ防止の意味合いもあって始めたらしいが、マージャンというツールだけで幅広い年齢層とコミュニケーションを取れるのであれば、田舎町でずっと家にこもっているより健全だし、ボケ防止以上の楽しみがあるだろう。いい趣味だな~とシンプルに思った。
2.
その話の後に「実はもう一つ趣味を始めたのさ」と語り始めた。
「それが、音楽関係なのさ」と落ち着いた口調で言った。ピアノ?バイオリン?ギター?と、思いつく限り50代後半の女性がやりそうな楽器を一つ一つ聞いていっても「違う、違う」とのこと。
そして、一呼吸置いて「最近オカリナを始めたんだよね」と言った。
なんでオカリナ!?!?!?と率直に思った。
選択は自由だからいいけれど、コード楽器とか比較的ポピュラーなバイオリンなどの弦楽器、サックスやトランペットなどの管楽器をすっ飛ばして、急にハウス世界名作劇場に出てくる少女みたいな楽器を始めるとは。
そこについては特に何も言わずに話を聞いていた。
曰く、数ヶ月前からオカリナの先生に習っていて、本なども見ながら練習をしているとのこと。
「マージャンを覚えるのに必死で、あんまり練習できてないけどね」とも言っていた。
夏に弟が大阪から帰省してきて、数日滞在したそうなのだが、最終日北海道が大雨で飛行機が飛ばなかったらしい。
そのため、滞在を2日ほど伸ばして、翌日は弟の運転でドライブに出かけたとのこと。
「ドライブにオカリナを持ってっていきなり吹いたらね、ゆうじろう(弟)に笑われたのさ」と言っていた。
続けて、
「ゆうじろうがすごくツボにハマっててさ…多分私のオカリナが下手だからだと思うんだけど」と付け加えていた。
下手だから笑われたと思ってるらしいが、どう考えても、予備知識なしで母親が急に車内でオカリナ吹き始めたこと自体が面白いだろ!!!
母親に関わらず、大抵のロケーションで人が急にオカリナを吹き始めたら面白いと思う。
工場、屋上のゲームセンター、立ち飲みの銀だこなど…想像するとなかなかにファニーだ。
ただ、背が150cmぐらいでややズングリした体型の母親がオカリナを吹いていることは、面白グッズとしてのオカリナにかなり付加価値をつけていると思う。
そして、森で吹いてたらジブリに出てくる感受性の強い少女みたいだし、葬式だったらおとむらいの旋律のようだし、洞窟だとなにか呪詛的だ。
いずれにしても、オカリナを吹くという行為自体に何かメッセージ性というか意味深長さがある。
ドライブで急に吹いたのも、楽しいドライブに一花添えるという感じではなく、母親からのまたしばらくのお別れの曲のような意味に思える。
そのときなんの曲を吹いたのかは、聞くのを忘れてしまったので、それ次第で意味が変わってくるところではあるが、逆にめちゃくちゃベタに『カントリーロード』とかで、それがド下手だったら情けなくて更にいい感じだ。
(続きます)