059 あだ名が好き(前編)

『しっくりこない呼び名たち』

 

1.

 最近、連日ニュースで報道されている「カルロス・ゴーン容疑者」という呼び名にしっくりこない。やはり今まで「カルロス・ゴーン会長」と言われていた人の肩書が急に変わるのは、どうしても耳に違和感が残る。

 

 桃鉄をやってるときに、12年目の9月に急に「ももたろ社長」から、「ももたろ星人」とかに呼び名の設定を変えたときぐらい違和感がある。

しかし、それも13年目の6月ぐらいには誰も気にしなくなっている。きっとカルロス・ゴーン容疑者、も聞いているうちに違和感が全くなくなるのだろう。側近が「カルロス・ゴーン容疑者、もう売る物件がありませんぞ!!」ということだろう。

 

 ハロヲタとしては、今年報道されていた「吉澤ひとみ容疑者」もしっくりこなかった。

被害者の方がいる話なので不謹慎かもしれないし、やってしまったことは犯罪であり議論の余地はないが、最後まで慣れない呼び名のまま吉澤ひとみは引退してしまった。

 

 同じように、海外のスターが亡くなったりしたときに急に「さん」付けになるのも違和感がありまくる。

マイケル・ジャクソンさん」「ホイットニー・ヒューストンさん」って誰か一人でも生前呼んだのか!?これも最後まで慣れなかった。

亡くなったとしてもマイケル、もしくはマイコーでいいのではないか。そういう呼び名でも少なくとも自分は不謹慎だとは思わない。

日本人の多くは、鬼籍に入った人はすべてその瞬間から完璧な聖人で、過去のスキャンダルについても手のひらを返したように言わなくなるし、親しみをもって呼ぶことすらタブー視してしまうのだろうか。とマイケルが亡くなったときに思った。マイケルさんが。

 

2.

 「ニックネーム」という概念を初めて知ったのは、小学1年生のときにやったポケモンだった。

最初はニックネームの意味もわからなかったが、捕まえたポケモンの名前を自由に設定できて凄く嬉しかった。「楽しい…これがニックネームなのか…」と思った。

 

 今更説明するまでもないが、ポケモンには、通信ケーブルを用いてモンスター同士を交換する制度があり、通信でしか進化しないポケモンもいたので、この制度に夢中になって田舎町の僕らもやっていた。

通信ケーブルは持ち運びできるのに、なぜか、通信ケーブルを持っている友達の家に集まるのが慣習となっていた気がする。僕の地元では古田かずま君の家だった。

 

 交換制度は、文字通り、双方が1体ずつポケモンを差し出して「交換」するものだ。

そのため、「友達が育てたポケモンが単純に欲しい」「交換というより譲渡をしたい」場合でも、制度上、何か向こうに一体差し出す必要がある。

そういうときは、たまたまレポートを書いていた場所の近くの草むらで、オニスズメ Lv.10とかをテキトウに捕まえてきて「うんこ」とかそういうニックネームを付けて交換に出し、それと引き換えにエビワラー Lv.45とかをもらっていた。

 

 その「うんこ」ことオニスズメ Lv.10は、エビワラー Lv.45を人に差し出せるぐらい手持ちのポケモンの層が厚い友達には、もちろん即不要とされて、すぐに「にがす」コマンドで野に放たれていた。

最近この事を思い出して、うんこ呼ばわりされていたあのオニスズメはどんな気持ちだろうと想像してしまった。

捕獲→交換→放出のプロセスを、目まぐるしいスピードで経験して、群れに帰ったあと、

「いやー大変だったよ、人間が急に現れて、モンスターボールに入れられて、その後ケーブルの中を通って、また知らない人の懐の中に入れられたんだよ」

『大変だったね』

みたいなやり取りの後「実はうんこと名付けられた」告白し、『うんこ?それはどういう意味なんだろうね』と仲間が、オニスズメ語と日本語の対訳辞書である”日オ辞書”を引いて、「うんこ - 排泄物の意。くさい」と出たら、群れの中でめちゃくちゃ馬鹿にされるだろう。

わけも分からず交換のスケープゴートにされて、排泄物の名前を付けられて野に放たれ、挙げ句群れの中での立場すら失うとは、とんだ災難だ。と思った。

こういうことを考えられるぐらいに心の余裕がある。いいことでしょ!?!?!?

 

 余談だが、初代の続編である『ポケモン金銀』では、手持ちのポケモンにアイテムを持たせられる制度があった。

そして、これを利用して「レポートを書いてる途中で電源を切ると、ポケモンが増殖する」という裏技があり、わが町にもどこからともなくこの裏技が伝来した。

 これを使うと、ストーリーの中で、通常は1個しかもらえないマスターボール(成功率100%でポケモンが捕まえられる)もバンバン増やせるので、難易度が激下がりしてしまうのだが、後先を考えない小学生はマスターボールを増やしてめちゃくちゃ簡単に強いポケモンを捕まえたりしていた。

 

 そんなイチ後先を考えない小学生だった僕も、この裏技の恩恵に預かり、マスターボールを増やしまくっていた。

この裏技を行うと、マスターボールと一緒に、そのアイテムを持たせたポケモンの数も同じだけ増えていくことになる。

 

 僕が、この裏技のための増殖要員に選んだポケモンスイクンだった。

スイクンは伝説のポケモンで、設定上、ポケモンの世界に1体しか居なく、だからこそ”伝説”と呼ばれている。

しかし、僕のカセットの中では、マスターボールを裏技で増やす度に、どんどんスイクンの数は増えていき、とうとう40匹ぐらいになった。世界観はとっくに崩壊している。

持ちきれないポケモンは、ゲームの中の「パソコン」に預けられるのだが、そのパソコンの中の枠も、だいぶスイクンで埋められてしまった。

 

 するとどうするか。パソコンの中の枠を開けようと「にがす」のコマンドを選んで、スイクンをバンバン野に放つわけである。

そんなわけで、僕のポケモンの世界の草むらには、スイクンが40体ぐらい異常繁殖し、その後もどんどんと野に放たれる世の中になってしまった。

 

 一人のマッドサイエンティスト(小4の僕)の利益のために、バンバン伝説のポケモンが増殖して生態系は荒れに荒れまっただろう。スイクンは伝説でも何でもなくなって格落ちしてしまった。

思い返すとめちゃくちゃ無粋で、あのスイクンたちもまた、「うんこ」と名付けられたオニスズメぐらい雑な扱いだった。

 

(続きます)