099 メタモンが好き

『弟・ユウジロウについて』

 

1.

 僕には10歳下の弟が居る。

 

 弟と僕は何もかもが正反対で、顔もそんなに似ていないので、兄弟だと紹介されないと、誰も血縁があるように見えないと思う。(仲はそれなり)

 

 僕はどちらかというと思弁的で理屈っぽく、超文化系である。

 弟は、思弁のかけらもない明瞭な若者で、高校時代もテニスに打ち込むなど体育会系な人間だ。

このように、考え方や生き方から全く違っている。それでも話せばそれなりに盛り上がるから不思議だ。

 

2.

 僕は、めちゃくちゃ感動しいで、ベタに感動のにおいがする作品を見るとボロボロ泣いてしまう。

一方弟は、そもそも映画などを見ないし、実体験でも感動して泣いた、そもそも泣かずとも感動したという話をひとつも聞いたことがない。

 

 今からする話は自分でもどうなの?と思うのだが、8年ぐらい前、当時12歳の弟と一緒に、居間で『春だ!まつりだ!ドラえもんSP』を見ていたときのことだ。

 

 その回では

「未来から来た悪の心を持つロボが、ドラえもんの身体を乗っ取って野比家に居候。

街ではドラえもんの身体を借りて悪事をやりたい放題。

 

最終的に、入れ替わりで悪のロボの身体になってしまったドラえもんの必死の訴えがあり、中身が入れ替わったことに気づくのび太

ドラえもんを信じて、タイムパトロールに、ドラえもんの身体(の悪のロボ)を差し出す」というあらすじの話をやっていた。

 

 当時21歳の僕は、久々のドラえもんの懐かしさもあり、食い入るように見ていた。

SP回だけあって、設定もしっかりしていて、心を掴まれた。

 

 最後、悪のロボが捕まる時に、野比家に居候中の温かい食卓の風景などを回想しながら、

「捕まっちまったけどよぉ……俺にも、あんなふうに優しくしてくれる家族が居ればなと思ったぜ…お前が、羨ましいよ…」

みたいなセリフを言った途端、感情が溢れて、僕は「ビエー!!!」と声をあげるぐらい泣いてしまった。感動しぃの本領発揮だった。

 

 (…弟も同じぐらい感動しているだろうな)と思って涙を拭き、弟の方を見ると、彼は無感情でアホ面を下げているだけだった。

 

それだけならまだしも、あまつさえ終わった途端にDSを取り出してポケモンを始めるではないか。

 

「いや~今のいい話だったよな~」と一応同意を求めると、彼の返答は「今ポケモンやってるから」というものだった。感情ないんか!?ロボトミー手術の後か!?!?と思った次第だ。

 

 こっちが感動しすぎなのもあるが、「12歳だし仕方ないか…」とも思った。

しかし、それから数年たった今も、映画で泣いたとか、実体験でも何かに感動したという話は聞いたことがないので、きっとそういう体質なんだろう。正反対だな~といつも思う。

 

3.

 僕は中学生の頃、どちらかというとマセたい方で、やたら友達と恋バナをしたがったり、背伸びして色々やってみようとする方だった。

現代であれば、中二病と片付けられてしまうような恥ずかしいことも沢山したが、そうやって背伸びしてやっていたことが今に生きていたり、単純にエピソードとして話せたりするので良かったと思っている。

 

 弟が15歳の頃、僕は実家に帰省した。

弟はマセる様子がゼロで、12歳のときと変わらず、ソファーに深く座ってDSをするばかりだった。

変わったことと言えば、声変わりの済んだ低い声で、夜中にyoutuberの動画を見て「アアアアア…アア!!」という特殊な笑い声を吹き抜けから家じゅうに響かせるぐらいだった。

 

 別にそれはそれでいいのだが、僕からは15歳にしては随分子供に見えたので、別に否定する意味合いではなく、夕飯のときに

 

 「ユウジロウさあ、今年15歳でしょ」

弟「そうだよ」

 「失礼だけど、自分の15歳の時に比べて、子供っぽく見えるわ」と率直に思ったことを言ってみた。

 

するとユウジロウは、「いや、そんなことないって!!俺はもう大人だよ!?」と強い語調で反論してきた。やっぱり15歳なりに、子供っぽく見られるのは嫌なのだろう。

 

そして、続けて

「だってもうピーマンも人参も食べれるよ!?!?」と言った。

 

その”大人”の基準が随分子供子供してるよ!!!!とツッコまずに居られなかった。

その後、好きな食べ物を聞くと「ハンバーグとカレーとスパゲティ」と、もはや昭和の子供ばりのお子様御用達メニューが脳内の食卓に並んだ。

 

 やっぱり爆裂に子供だった。

けれど、15歳にもなって、好きな食べ物にまっすぐこの3つを挙げられるスれてなさこそが弟の良い所で、この通りまっすぐに優しい好人物であり、赤ちゃんの頃から家族に癒やしをもたらしてきたのは言うまでもない。

大きな感動はしない彼だが、その分フラットな気持ちで、人に親切に出来るのかもしれない。

 

4.

 僕の好きなポケモンは「メタモン」である。

 弟がポケモンをやりこんでいる時に、好きなポケモンについて聞くと「イーブイ」と答えていた。

色々話していくと、僕も弟も、メタモンイーブイが好きな理由は「何にでも成れるから」だった。

正反対の僕たちだが、好きなポケモンの理由だけは共通している。何にでも成れる自由さにあこがれる所は一緒だった。

 

 そんな弟は昨日19歳の誕生日を迎えたらしい。

 

 彼は一流の料理人になるため、今は大阪の調理学校で修行をしている。

いつか、彼の作るハンバーグとカレーとスパゲティ、そしてピーマン料理に舌鼓を打ちたいものだ。

とにかくおめでとう。このブログも見ていないし、LINEも送ってないから気づくわけないけど。

彼のまっすぐな優しさが料理に反映されて、色んな人に笑顔をもたらしてくれる未来を楽しみにしている。