003 黒澤明(のポスター)が好き
『黒澤明ポスター展 「旅する黒澤明」を見て』
1.
2018/4/17~9/23まで、東京駅近くの国立映画アーカイブでやっていた、黒澤明ポスター展『旅する黒澤明』を見た。2回見た。
そして、1回目行った時すでに国立映画アーカイブが閉まっていて中に入れなかったので、建物までは都合3回行った。もう東京駅から目隠ししたまま、国立映画アーカイブまで歩いて行けるだろう。(like a ワリオとマリオでバケツ被されたマリオ)
この展示は、今年4月に開館した、映画の保存・研究・公開を通じた映画文化の発展を目的にした施設、『国立映画アーカイブ』の開館記念として、世界中で公開されている黒澤作品の、各国ごとのバージョンのポスターを年代別に公開する特別展だった。
ポスターの収集は、槙田寿文さんという方が個人で行われていたもののようで、その私的な30カ国84点(!)に渡るコレクションが所狭しと並べられていた。
一度目に訪れた時は6月半ばで、まだ黒澤監督作品全30作中16作しか見られていなかったため、見た作品についてはもちろん「あぁ~この場面をこんなふうにフィーチャーするなんて!!」と感動もひとしおだったのだが、見ていなかった約半数の作品について自分の中でブラックボックスと化してしまっていた。
映画監督だけではなく音楽家などについても、かなり好きになるとその人の作り手としての年代別の変化・作風がグラデーション的にどう変わっていくのかというところまで知りたくなるし、その背景にどういう体験や影響があったのかまでなるべく知りたくなるたちなので、2回訪れることを決め、次回はこの展示を味わいつくすぞ~と思った。
2.
それからというもの残り14作を立て続けに見た。虫食いになっていた部分をなるべく楽しみながら見られる順番で見た。
家で映画を見る時は、10回に7回ぐらいは傍らにマイクポップコーン(バターしょうゆ味)を傍らに携えているので、この月のマイクポップコーン(バターしょうゆ味)の消費量はかなり多かった。一日の1/4ぐらいは手がバターしょうゆ臭い状態だったと思う。月換算すればひと月の1/16ぐらいは手がバターしょうゆ臭い状態で過ごしてたかもしれない。数字に弱く如何に計算が出来ないかが分かっていただけただろう。
ちなみに、最終的に30作見終わるまでの鑑賞順は以下
七人の侍→生きる→羅生門→生きものの記録→酔いどれ天使→姿三四郎→赤ひげ→醜聞<スキャンダル>→素晴らしき日曜日→用心棒→椿三十郎→白痴→蜘蛛巣城→どん底→天国と地獄→夢(ここまでで16作)→乱→デルス・ウザーラ→悪い奴ほどよく眠る→虎の尾を踏む男達→どですかでん→わが青春に悔なし→一番美しく→野良犬→影武者→八月の狂詩曲→静かなる決闘→続姿三四郎→隠し砦の三悪人→まあだだよ
発表順としても遺作で、自分が最後に見た『まあだだよ』は、恐縮ながら終盤まで黒澤ファンでもお世辞にも面白い映画とは言えない作品という印象だったが、最後の30分にドストレート過ぎるメッセージ性が込められていたし、皮肉を込めて”日本映画の天皇”と呼ばれた人が完全に自分のために撮った映画で、映画の向こう側に行ってしまったような境地だなあと思った。
同時に見終わった時は達成感というよりも、まさしく死後の世界のような、地に足のつかない不思議な浮遊感があり、最後にまあだだよを見てよかったと実感した。こういう気持ちは今まで映画を見てきて初めてだった。
3.
全監督作品30作を全て見て臨んだ『旅する黒澤明』は、一度目に見た時とは全く実感が違った。
特別展の展示室入り口には、開催の挨拶とともに「全監督作品の公開年・主演・脚本・音楽担当…」などを、一覧表にしたパネルがあったのだが、全て見た後だと
「生きものの記録で早坂文雄さんが亡くなったんだよなあ~」「ここで武満徹の降板があってね~」など、”クロサワ天皇”に関わり、時に振り回された人たちの変遷も頭をよぎる作品の名場面とともに味わえて楽しかった。このパネルの前だけで20分ぐらい喋ってたかもしれない…笑
年代別に並べられたポスター群はまさにフィルモグラフィーの絵巻物という感じで楽しかった。僕の一番好きな、作り手の時期ごとの作風の変化のグラデーションがわかりやすく見られたのが嬉しかった。
監督降板となって自殺未遂に至ることになった映画『トラ!トラ!トラ!』の当時の脚本やスタッフジャンパー、生きものの記録の直筆タイトル案など貴重な展示もあった。そういった黒澤明の生涯の事件も含め公開順でポスターが展示されているところが良かった。
改めてポスターを見て思ったこと
- 三船敏郎、志村喬の顔は外国人から見ても抜群に個性的なようで、大きくあしらわれているものが多かった。スクリーンのみならず、ポスターでも大画面に耐えうるスター性や華が素晴らしい
- 三船敏郎、どの年代もかっこよすぎ…本当に全男たちの憧れなんじゃないか!?!?!?特に静かなる決闘、酔いどれ天使、野良犬あたりの青年然とした三船の表情は現代でも通用するイケメン。大写しにされているポスターが欲しい
- 『虎の尾を踏む男達』のインド版(?)だったかのポスターで、大きな月の下、エノケン含むあのパーティが山を登っている構図がめちゃくちゃかっこよかった。”最強のパーティー”感が出ていてワクワクした。
- 終盤の、イタリアの美術館でかつて開かれた『黒澤明原画展』のポスターで、黒澤明自身が書いたまあだだよの原画絵コンテが使われていたんだけど、晩年のカラー作品での印象的な色使いまんまだった。(『夢』の赤富士や桃畑、『影武者』の悪夢を見るシーンなど)
- ポーランド版のポスターがセンス抜群。作中に出てきた印象的なモチーフや表情などを、絶妙な切り取り方でフューチャーして超カッコいい構図に当てはめる!!
(このナタリーの記事に出ている、酔いどれ天使のポスターなどがポーランド版です)
- 途中からポーランド版探しになったし、逆に意識しなくても「これカッコいいじゃん」ってやつだいたいポーランド版だった
- ポーランド版最高
- ポーランド何あるか知らないけど行ってみたい
…まだまだ感想はあるのだが、ポーランド版の鮮烈な印象でいくつか上書きされてしまった。ポーランドの観光情報をお持ちの方がいましたらお寄せください。
「黒澤明 ポスター」でググると国内版含めて結構いろいろなポスターが見られます。
一部撮影OKのゾーンがあって、何枚か写真を撮った。蜘蛛巣城の場所ではみんながこの表情を真似したくなると思う。(写真は2回目一緒に行った谷本君)
______
七人の侍のイタリア版ポスター。コントラストの強い洒脱な配色、の前で、照れて終わりかよ!!もっとハシャいだりしろよ
_____
外に出ると七人の侍で平八が作った旗のレプリカ。の前で、照れて終わりかよ!!!
最後展示室から出るのが名残惜しいぐらいに良い展示だった。企画してくれた方々に感謝。
今回特別展の『旅する黒澤明』は会期を終了してしまったわけだが、常設展の内容も、これはこれでエッセイが一つかけるぐらい充実したものだった。
要約すると、日本に映画が伝来してから商業映画が成り立ち、発展するまで、を当時の貴重なフィルムや機材を用いて紹介する展示だ。
これだけの内容がなんと特別展含めて250円。映画好きはもちろん、僕のような映画好きビギナーも行くっきゃない。(ステマではない)
展示以外にも、過去の名作から時期ごとにこだわりの作品を最新機材で上映するイベントもある。なんと、予告編もないので上映時間に遅れると入れないというこだわりっぷり。おすすめです。