006 忍者Tが好き(前編)
『意図せず脱邦人(前編)』
1.
黒に白地で「NINJA」と書いてあるTシャツを買った。
(ここでおもしろ ジョーク 半袖 Tシャツとかかれているのが少し恥ずかしい)
これは以前、高円寺の雑貨屋(むげん堂)で見つけ惹かれたのだが、店内をぐるりと一周して「さ~て買おうかしら♪」と思った矢先、
関西から観光でこられたとおぼしき3人の娘さんたちが、NINJA Tを手に「どうしよ~買おうかな~?」と言っているではないか。
1分ほどの議論の末、結局その1点しかないNINJA Tは「せっかくだから買っちゃうわ~」と娘さんに貰われて行ってしまった。(…買うな!買うな!…)と念を送っていたのだが、まだ忍術の能力が未熟だったので届かなかった。
それから1年が経ち、再び立ち寄ったむげん堂で同じNINJA Tと劇的な再開。今回は同じ轍は踏むまいと、発見からノーバウンドでレジに運んだのだった。
そんな経緯もあり手に入れてからと言うもの、大変気に入り次第に自分でも何も思わないほど、着まくっていた。
そして東京タワーへ訪れた際、無意識的にこのTシャツを着て行ってしまい、会うお土産屋さんお土産屋さんに「Hello~How Are you~」と言われてしまう始末。そこは、小4のときに児童英検3級を取得した抜群の英語力で「サンキュー」と返した。
特にこの頃黒髪ながら強めにパーマをかけていたため、もともとの濃い顔と相まって東南アジア系の観光客だと勘違いされてしまうことひとしおだった。
2.
これ以外にもパーマをかけているとき外国人に勘違いされた(同じ国出身だと思われる)のエピソードはいくつもある。
以前、新宿三丁目の「かつてビジネスホテルだった築50年ぐらいの建物」に住んでいた、先輩の順平さんの家に遊びに行ったときのことだった。
当時東京に遊びに来ていた僕は、順平さんの家に2泊ほどさせてもらう予定だった。
2日目の朝「今日は予定もないから鎌倉に行こう」と前日の夜から二人で計画をしていたのだった。生まれた時から生粋の丘サーファーの自分は、湘南でサザンオールスターズの『海』という曲をじっくり聞くことが目的だった。
準備をしつつ、コンビニに朝食を買いに行き、再度部屋に戻ろうとすると、路地の向こうから東南アジア系の屈強な男が歩いてきた。眼力が強く、こちらをずっと見ているため3秒ぐらい目が合っていた。
自分が順平さんのアパートに入り、エレベーターに乗ろうとすると、その屈強な男が突然ダッシュでエレベーターに乗り込んでこようとするではないか!!!
驚いて「閉」を連打する僕。ほうぼうの体で部屋に戻り、順平さんにそのことを話すと「へぇ~何もなくて良かったね。何しようとしてたんだろうね、同じ国の人と思われたんじゃない?」とのんきに言われた。
いやめちゃくちゃ怖かったからそんなレベルじゃないんですって!と言おうとしたが、その頃の自分は長い髪のパーマを茶髪に染めて、紫色のちょっとエスニックな柄の上着を着ていてわずかに日焼けしていたので本当にそうだったのかも、と自己を省みた。
そんな話をしている刹那、部屋のドアが、コンコンとノックされた。(築年数が古くチャイムはない)
順平さんが恐る恐る、のぞき窓を見るとびっくりした顔でこちらを振り向いて「見てみな」というジェスチャーをした。
息を殺して自分ものぞき窓を見ると、さっきの屈強な東南アジア系の男が座った目でこちらを見ていた。
カギが締まっていなかったので、締めようとした瞬間、外側から勢いよくドアノブが回った!ドアノブを押し込みながら必死でカギを締めた…
その後は15分ほど息と足音を殺して部屋の中で無言で座っていた。外を見るとその男はもう居なかった。
結局何もなかったから良かったものの、本当にあれはなんだったのだろうか。もし開けていたら、あるいはカギを締めるのがワンテンポ遅れて開けられていたら、息と足音を殺した後自分が殺されていたかもしれない。(2/100点)
まさか同じ国籍だから「トモダチニ、ナロウヨ!!」というイッツアスモールワールド的ユートピア思想のほのぼのエピソード決着ではあるまい。
結局その日は昼過ぎまで出かけられなかった。昼過ぎに部屋を出ると、順平さんの10万ぐらいのチャリが盗まれていた。たぶんあいつだ…盗むぐらいなら「チャリヲ、チョウダイヨ!!!」とちゃんと交渉してくれたら良かったのに…
(後半に続きます)