065 調味料を買うのが好き(だが、使い切れない!) <上>

『使い切れない調味料』(前編)

 

1.

 一人暮らしにおいて、ゆず胡椒を使い切れたことがない。

 鍋がめちゃくちゃ好きなので、一人で家で鍋を食ったりもしていて、そういうときに「ゆず胡椒があればQOL(quality of life)が上がるな…」と考えて、瓶詰めになったゆず胡椒を買った。

水炊きとか、簡単な鶏塩鍋に入れるとめちゃくちゃウマイ。当たり前だ。もう何億年も前からこの組み合わせは鉄板とされている。約5000年前のエジプトの遺跡から見つかった粘土板にも、「鶏塩鍋とゆず胡椒はウマイ。あとはクリアアサヒがあれば」と書かれていたらしい。

人類がここまで進化できたのも、木の上から降りて、ゆず胡椒を上手く使い始めたかららしい。

最初にゆず胡椒を見た我々の祖先の原人は、大木の影に隠れて、ゆず胡椒に向かって(シュッ…)と石を投げるほど恐れていたらしいが、ゆず胡椒がトモダチだと気づいてからの適応と進歩はとても早かった。マンモスの肉に塗ってよし、狩りの前に目の下に塗って眠気を覚まし気合を入れてもよし、老朽化した家のスキマに塗ってセメント代わりにもなる、ということで大変重宝されたらしい。この妄想だけでかなり長くなってしまうので、このへんで打ち止めにしたほうがいいらしい。

 

 ゆず胡椒を手に入れた当日、一時期の中日浅尾か、ってぐらい登板過多にゆず胡椒を使いまくり、鍋に入れまくる。

体もポカポカになって大満足し、最初は冷蔵庫の中の手前部分に置き「絶対また使おう」と思うが、キムチ・ヨーグルト・袋入りのチキンナゲットなどが買い足されていくうちに、自然とゆず胡椒は冷蔵庫の奥の奥に追いやられてしまう。

 

 そこからのゆず胡椒の使わないこと使わないこと!!自分がズボラなだけかもしれないが、半年~一年後に、たまたまキムコ(冷蔵庫の脱臭剤)の裏にあるゆず胡椒を発見して「そういえばあったな…」と気づいた頃には、もう中をあけるとカピカピになっている。

発見して無理矢理に使おうとするが、風味が落ちていて、あの頃と同じ女(ひと)ではない、感が出てしまう。

こうして再度お蔵入りになるか、断腸の思いで捨ててしまう。この流れを数回繰り返している。

次回にゆず胡椒を買う時はもう少し使おうと努め、実際に使用頻度も上がるが、それでも結局使いきれず風味が落ちてなあなあのうちに同じ運命をたどる。

 

 これを人に言うと「ええ~!!」と驚かれた。

 そんなにおかしいことを言っている自負がいまだにないし「ゆず胡椒ってバリバリ使うよね」より「ゆず胡椒って使いきれないよね」のほうが絶対あるあるの多数派だと信じてやまない。

 

2.

 その他、「使いきれない調味料」の代表格として、コチュジャンが上げられる。

 この間、たまにLINEのタイムラインとかに出てくる早回しのレシピ動画で『まるごとカマンベールチーズ チゲ鍋』というものが出てきた。

 

 チゲ鍋の真ん中に、切れ目を入れたカマンベールチーズがデーンと鎮座している料理で、カマンベールもチゲ鍋も大好きな僕にとっては、「鬼に金棒」・「虎に翼」・「来日一年目の外国人助っ人選手に、日本のお笑い芸人の一発ギャグ」である。

これはうってつけとばかりに、初めて、”レシピ動画”に触発されて、同じ作り方でこの鍋を作ってみることにした。

 

 よく考えれば、市販のキムチ鍋のスープにカマンベールチーズをまるごと入れるだけで良かったのかもしれないが、せっかく初の「レシピ動画に触発され経験」だったので、動画のレシピに忠実に作るために材料を買い足してベースから作った。その買い足しの材料にコチュジャンも含まれていた。

その鍋自体は、砂糖の分量を間違えてしまい、終盤「食ったら即・歯科医へ」というぐらい底の方が甘い味になってしまったのだが、概ね満足だった。あまり料理で失敗しないのに珍しくやってしまった。

 

 そして、コチュジャン自体をほとんど買ったことがないので、これまた持て余してしまった。

無理矢理しゅうまいに塗って食ってみたり、餃子を食う時に入れてみたり、チャーハンにちょっと混ぜてみたりするのだが、扱いに慣れていないので異物感が現れてしまう。

何より思ったのは「初めてコチュジャン使いたくなった日が一番使いたいし、一番コチュジャンの味感じたい」ということだ。

醤油や塩コショウに比べて、比較的珍しい調味料は「こんな調味料使って、なんだか本場の料理みたいだね!」というワクワク感も含めた価値があると思う。

そして、その価値は最初に使うときが一番高まっていて、それ以降は相対的に薄まっていって、しまいには調味料自体が自然と忘れ去られていくのかもしれない。

 

料理上手で、本格的に料理をしている人なら、調味料に対してこのような感覚はないかもしれないが、少なくとも、素人の料理ではそういう意味合いが強く、買った当日以降は持て余してしまう。

 

(続きます)