017 職人気質が好き <結>

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『夏の勝新太郎(略して夏新)』-4-

 

9.

 ここまで読んでくれた方はお気づきかもしれないが、今回の修理中、結果カタクラ老師はほとんど何もしていなかった。

基本的に勝新の作業を後ろから見たり、たまに勝新の言うことに「ほぉ~」と感心するような有様だった。

 

 途中、こんなやり取りがあった。

勝新がエアコンの蓋を開け、内部を見ようとした際に、前述のブレーカーを落とし忘れていてプチ感電してしまったのだ。

「イッテ!!!…うわ、久々にやっちゃったなあ。カタクラさん、ブレーカー落としてもらっていいですか?」と勝新が声を掛けると、『はいよ!』と老師は玄関のほうに向かった。

 

 身長160cmほどの老師には少しブレーカーまで身長が足りないかなと思ったので、大丈夫ですか?と言うと、『あー大丈夫です!』と答えたのでおまかせすると、老師は

『はい、じゃあー行くよー!!』と声をかけ、ピョン!!と全力でジャンプすると同時に、あろうことか全体のブレーカーを落としたのだ!!!

 いや、空調だけのやつありますよ!?!?と少し笑いながら声をかけると『えっ!そうなんですか!!』とのこと。

 冷蔵庫や部屋の電気まで全部落ちてしまったので、結局僕が全体のブレーカーを上げて、空調のブレーカーだけを下げた。勝新は笑っていた。

 

10.

 老師のその風体に、過剰な期待を抱いていた僕は(なんだよ…老師…結局見た目通りの人だったのかい!?)と少しがっかりしていると、修理が終わった後、最後に老師が勝新に声をかけた。

 

 『あのさぁ 今は直ったかも知れないけど、これレベル取れてないよね?』と。

 

 (そうだ…!!カタクラ老師、あなたはあの日のたった5分の診断でレベルが取れていないことを見抜いた!そして、このやり手の勝新ですら、レベルが取れていないことには気づいていないのだ!ここで勝新をハッとさせてくれ!格 -レベル- の違いを見せてくれ!!)と半ば祈るような気持ちでやり取りを見ていた。

 

 勝新は「レベル…」とつぶやき、二日前に老師がレベル計測をしたものと同じ器具を取り出した。

 

 数秒の沈黙……合格発表を見る前のような気持ちだった。

 

 「レベル……取れてますね。」

 

 (ダメだーーー!!!!!!!!!!!!!!!)

カタクラ老師は、熟練した達人ではなく、ただただ順当にお爺さんだった。

 

しかしながら、今回の案件に勝新を連れてきてくれたこと、それに感謝だ。

 

 『じゃ、直りましたけど2~3日後にまた、様子どうですか!?ってことで電話しますから!どうもー!』と勝新とカタクラさんは帰っていった。

本当に直っちゃってすごいな~なんか面白かったな~と余韻が残る中、畳の上を見ると、ポッケの中に工具がびっしりの作業着があるではないか!

間違いなくカタクラさんのだ!!まだ間に合うと思い、急いで外に出て声をかけた。

あの、忘れてますよ!

 

 『ああ、すいません!!どうもー』とカタクラさんは、思いっきり作業着を翻して羽織ろうとした。遠心力でポケットの工具を全部道にぶち撒けていた。

流石に付き合いきれない、と呆れ笑いを浮かべながら部屋に戻った。

 

 兎にも角にもエアコンは魔法のように直ってしまった。

カビた畳の交換を待っている状態だが、残暑の東京でも快適に使えていた。カタクラさんと勝新に改めて感謝だ。

そしてもちろん2~3日過ぎても電話は来なかった。

 

<完>