026 リキュールが好き(と、のたまっていた) <下>

(↓前編からの続きです)

025 リキュールが好き(と、のたまっていた) <上> - やなせ京ノ介の好きなことを好きなだけ話すブログ

 

『さらば”大人の基準”』(後編)

 

3.

 そんな僕も中学生の頃には、「大人の基準」をクリアしようクリアしようと背伸びしまくっていた。

しかも思っている「大人の基準」が闇雲というか、世間一般の「大人の基準」を全く無視して、間違った方向の努力ばかりをしていた。

 

 野球の大会に、全裸で天狗の面を股間につけてTM NetworkGet Wildをエアギターで弾く、みたいな種目で参加しているようなもんだった。

もっともっと最初に、ミットやバットを揃えたり、ユニフォームを着たりする必要があることに気づいていなかった。そもそも種目ごと間違えていた。

 

 見た目から童貞丸出しなのに、服にこだわったりするのではなく、モテようとして雑学を100個覚えたり、モテようとして恋愛心理学を研究したりと言った具合に、本当に間違った努力のお手本だった。

wikipediaに『間違った努力の一覧』という頁があれば、『間違った努力をしている人の例』として中学生のときの僕の写真が載っているだろう。

青春マリオカートのジュゲムがずっと、テュンテュンテュンテュンと目の前で指を振っていたが、無視して青春サーキットの間違った道を爆走していた。(wrong wrong way!!)

 

 大したエピソードじゃないが、特に今でも恥ずかしいな~とたまに思い出す出来事がある。

友達の川口くんと、中2の頃ホームページを作ったことがあり、その中にプロフィールのコーナーがあった。

今思えば、田舎の中学生二人のプロフィールを誰が詳細に知りたいのか、とも思うが、

それぞれが8つずつぐらい質問項目を考えて、それにふたりとも答える、みたいな流れだった。

 

 その中の、川口くんが出してきた質問に”好きなお酒”という項目があった。

中2だったので、お酒なんて正月のお神酒ぐらいしか飲んだことがなかったが「ここでちゃんと答えないと負ける!」という、今から思えば全く意味不明のプライドが発動し、頭をフル回転してお酒の名前を絞り出そうとしていた。

しかも「ビールとかだとめちゃくちゃ普通だし、嘘だと思われるかも知れないな…カクテルの名前にしないとカッコ悪いな…」という、輪をかけて意味不明の背伸びが働いていた。

 

 考えに考え抜いた挙げ句、当時、父親が行きつけだった居酒屋パブみたいなところのメニューで見た単語を思い出し、これしかない!と決断し、「好きなお酒:リキュール」と書いた。

 

 広すぎるし、カクテルの名前ではない。「好きなタイプ:人間」じゃないんだから。「住所:地球」じゃないんだから。2000年代前半の窪塚洋介くんみたいなキャラだったら言いそうだけど。

逆塚洋介くんだった僕にはとてもとても似合わない背伸びであった。そして川口くんは普通に「好きなお酒:なんだろう~あんま飲まないけどビールとか!?」と書いていた。

 

 見る側も中学生だったし、そもそもクラスの10人ぐらいしか見ていないし、川口くんにも僕にも何も言う人はいなかった。

実際には、この不毛なマリオカートにジュゲムなどいなかったのだ。どころかコースすらなかったのかもしれない。

 

4.

 当時「中二病」という言葉は、今ほど浸透しておらず、今のような意味で使われていなくてよかった。

それは、中二病という類型に、全部一緒くたに当てはめられて切ない思いをしなくて済んだということと同時に、中二病という言葉を知っていたら様々な勘違いな行動を取っていなかったと思う。

 

 なんだかんだ、あの頃モテようとして覚えた雑学100個は、今でもふとした会話の折に出てくることがあって話のネタになっているし、現在も雑学だけはスルスルと頭に入って人に話せる体質になっている。

こうして間違ってやった努力も、何かの役には立っているし、間違ったままの自分を作る構成要素になっている。良くも悪くもアイデンティティだ。もっといえば、「間違った努力」という”基準”も曖昧で、何がそれにあたるのかもわからない。

「これは中二病だな…」と中2の当時から考えていたら、このエピソードや雑学の記憶は生まれなかっただろう。

 

 これからも「大人の基準」に翻弄されすぎないで、なるべく思うがまま行動することが、いい意味で間違った味のある人間を作るかも知れない。

誰かが設定した曖昧な基準をクリアしようと躍起になる必要はないし、まして押し付ける必要もないと考えている。

年齢を重ねるごとに、クラスや学校という”10代の恐怖政治的環境”の呪縛からも逃れ、その「基準」からどんどん自由になれていることが楽しいと今は思う。

 

 だから、あの日泣いたやっちもあれはあれで良かったのだ。彼も立派かどうかわからないけど、楽しい大人になっている。って締め方はちょっと強引か!?頭冷やしてリキュール飲んできます。

 

<完>