030 駅前通りの肉まんは好き

『対 客引き狂詩曲(ラプソディ)』

 

1.

 以前、札幌で住んでいた場所は、歓楽街・すすきのから少し外れたところにあった。

そのため、普段の通勤・帰宅の際もすすきのを通ることが多かったのだが、北日本イチの歓楽街とあって、昼から客引きの類が多く路上にいた。

 

 真っ昼間、まったくのシラフでただただ家に帰る道すがらで「どうですか?今日は、風俗は!」など声をかけられる。

基本的には無視するのだが、あまりにしつこい場合は「家近所なんで帰るところなんですよ」と一言いうと「あ、そうなんですか、すいません~」と笑いながら食い下がってくれる。

時々それでもグイグイ来る人がいる。客引きに連れて行かれる店にいいイメージはないが、世間話ぐらいならすることはあるし、その範囲であまり悪い人はいない。

でも、全く相手をする気がないのにずっと営業モードで来られると流石に困ってしまうし、迷惑だな~と思う。

 

2.

 昔、先輩の順平さんとすすきので飲んで、帰ろうとすると必ず客引きに声をかけられていた。

あまりの数なので普通に歩くにもうるさいし、しつこいので困っていた。客引きにとって、男性二人の客はまさに格好の的なのだろう。

 

 そこで、順平さんが「駅前通りにある屋台で売ってる肉まんを持っていたら声をかけられない」という、すすきの都市伝説を聞きつけ、ある日飲んだ帰りに実践してみることにした。

居酒屋に行った後で、そんなにお腹は空いていなかったが、屋台で肉まんを買って食べ歩いていた。

 

 普通に声をかけられた。

しかも断るにも肉まんを食いながらなので、もぐもぐ感のある返答になってしまい「えっ?」と聞き返されたりして、むしろ手間が増える一方だった。2011年ぐらいに我々は早すぎたもぐもぐタイムを実践していた。すすきの都市伝説は簡単に打ち砕かれた。

 

 色々作戦を練って試した結果、客引きには「僕らゲイなんで」とお断りするのが一番だということがわかった。「ゲイなんですか~!」と若干びっくりされながら、その場を去ることが出来る。ただ、それにしたっていろんな客引きの人に「ゲイなんで」「ゲイなんで」と嘘をついて歩くのは心が痛かった。

 

 すすきのでは普通に”客引きは違法です”というアナウンスも路上で流れている。一時期に比べて数は減ったように思うが、それでも観光客などは話を聞いてしまうから完全に居なくなることはないのだろう。

 アナウンスの他に、去年ぐらいから『客引き撲滅ワゴン』みたいな車両が街を走っていて、真っ白なハイエースに青いパトランプをつけた車が、60代ぐらいのおじさんの声のアナウンスをスピーカーから流している。

 

 その内容は、懐かしさのある北海道訛りで「客引きの言うことは全部ウソです!信じてはいけません!安く美味い酒が飲めて、良い女性が付くわけがありません!!」と大声で断言しているものだった。

最初は、ごもっともだと思っていたが、もしこのアナウンスの人がゴリゴリの被害者だったら面白いな~と思ってしまった。

「(すべて信じて騙された私が言うんだから間違いありません!)」ということだったら、すごい説得力だな~とニヤニヤしながらそれを聞いていた。

 

3.

 すすきのにバニーガール姿で女性が接客するガールズバーがある。

その店舗に入ったことはないが、結構人通りの多い場所に面していて、どこか飲みにいくにでも普通にその店の前を通ることになる。

 

 そのお店は、正面が全面ガラス張りになっていて、店が混雑していないときは、そのガラス張りの入り口のギリギリにバニーガール姿の女性が3人ぐらい立っている。

そして、そちらを見るといきなりドアがバンッ!と開いて、その3人が路上に少し出て手を振ってくる。

 

 お店に興味を持って見ている人に対してそのように訴求することは良いと思うのだが、僕は何か物が動くとそっちを見てしまいがちなので、

店の前を通るとき何か気配を感じて何の気なしにガラスのほうを見ると「バンッ!!」とドアが開いてワーッ!!と人が出てきて、めちゃくちゃビックリしてしまうことが何回もあった。

しかもびっくりすると「うわー!!びっくりした」と言ってしまうので、その店の前で「うわー!!びっくりした」と叫んだことが何回もある。何回やっても学習できない。

 

 そのバニーガールの姿に興味を持ったお客さんが入っていく様子も頻繁に見たので、訴求の効果はあるのだろう。

そして、興味を持った人は、みんな最初すぐには反応せず「……いいね…いいんじゃない!?!?」みたいな感じでジワジワ効いて来て、男友達と一緒に入っていくという様子だった。

 

 ここで思ったのはワーッ!と元気に手を振ってきた女性たちに対して、それ以上のテンション&大声で、言われてから0秒で「うわーー!!!!!!!!!!!!!!しゃー!!!!!最高!!!!!いいね!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!入るわ!!!!!!!!!!!!!!!」みたいな感じで食いつきまくったら、絶対あっちがビックリするだろうな、ということを妄想していた。(妄想していただけでやってない、やったらめちゃくちゃびっくりされたと思う)

 

 それと同時に「こんだけ食いつきのいいリアクションを秒でしたら、めちゃくちゃ格好の的で、店に入ったら意図した通りの結果になるのに、なんでビックリするんだろうな」と考えた。

 

 まずは前述した、大多数の客のリアクションとあまりにも乖離したテンションと、食いつくまでの秒数の早さが原因だろうと思う。

それと同時に「あまりにも簡単に意図した通りの結果になりそうだから、それはそれで不自然で疑ってしまう」ということもあるのではないか、と結論づけた。妄想だからビックリすらしないかもしれないのに。

 

4.

 今となっては若気の至り&完全な悪癖だが、高校2年生の一時期、架空請求系の迷惑メールが来たら、全部電話して「裁判は怖いです…!どうやって払えば良いんですか!?」とめちゃくちゃ慌てた感じで聞き、ちぐはぐなやり取りをするという民度がひっくひくに低い遊びをしていた。どんだけ暇だったんだ。

 

 だいたいオチは、相手の提示してきた金額の半額を動揺した感じで言う、というくだりだった。

(例:100万円と言われたら、「ひゃっ…ひゃっ……50万円!?!?!?」)

これはアンタッチャブルの誘拐の漫才のサンプリングなのだが、これを言うと大体「もうかけてこないでください」と言われる。

 

 動揺しているとはいえ「わざわざ電話までして払おうとしている優良顧客」なのに、まともに取り合ってもらえないのが不思議だった。

これももしかして、「意図した通りの結果があまりにも順当に来てしまったから不自然で疑ってしまっている」状態なのか!?!?!?!?!?

 

 例えば家に泥棒が入ってきて、逃げられ、捕まえようと追いかける。

しかし、しばらく追いかけていて、泥棒が身を翻してこちらに向かってきたらどうだろう。かなり怖いし逆に逃げ出すと思う。

意図した通りの結果になりそうなのに。それはそれで身の危険や不自然さを感じてしまう。

 

 それと同じで人間はあまりにも幸せだったり順調だと疑ってしまう習性があると思う。

なるべく関わりたくない人がいれば、何かのタイミングで「その人が望んだ通りの結果を」「あまりに異常なテンションで」提供してあげると、不気味がって離れていくかも知れない。

 

 今回は自分でも何が言いたいのかわからない終わり方になってしまった。オチの歓楽街で迷子になってしまった。今、オチの客引きがいればホイホイとついていくのに。

 でも、本当に目の前にオチの客引きが来たら、僕はそれを疑ってしまうかもしれない。

 そして、オチの客引きに騙されたら、白いハイエースを運転し「オチの客引きの言うことは全部ウソです!簡単に面白い文章がかけて、良いオチが思いつくわけがありません!!」と大音量で流し、街中に啓蒙しようと思う。騙された私が言うんだから間違いありません。