084 都市伝説が好き (前編)

『親知らずの思い出』(前編)

 

1.

 都市伝説が好きだった。

 僕が高2ぐらいの頃、今はなき(あるの!?)モバゲータウンがかなり流行っていて、最初は安易に流行りに乗りたくないという、10代らしい無駄なトガリから会員登録することを避けていた。

 

 最終的には「周りみんなやってるし」というこれまた10代っぽい同調で、例に漏れず僕もモバゲーを始めた。こういうトガリは今も昔も本当に無駄である。

 

 モバゲーを始めてから、モバゲーに登録している色んな人のページに公開されていた、”都市伝説まとめ”みたいのを狂ったように読み漁った。

もともと雑学好きだったということもあって、そういうところで仕入れた情報を得意げに人に披露したりしていた。

 

そして、当時なぜか「カーペンターズのベストアルバムを、暗い寮の部屋で聞きながら、延々都市伝説を見る」というスタイルがお決まりだったので、今でもカーペンターズを聞くと、怖い都市伝説を思い出して背筋が寒くなったりする。

めちゃくちゃな無駄パブロフが形成されてしまったな。

 

2.

 その都市伝説の中でも、特に信じていたのが、

 「歯医者の治療で、歯科助手が施術中におっぱいを当ててくるのは、痛みを忘れてリラックスしてもらうためワザとやっている。なので、歯科助手・歯科衛生士のマニュアルとして、患者におっぱいを当てる決まりなのです」というものだった。

 

 これは本当に信じていた、いや、信じたかったというほうが正しいかも知れない。

 

 この噂をモバゲーで読み、当時寮に住んでいた友達たちに、すぐにその話をした。

友達の一人、レミオから「地元の歯医者にたまに行くけど、たしかにおっぱい当たるわ。」という有力証言を得られた。

 

 レミオの証言を(真に)受けて、僕はかなり色めきだった。

しかし、僕は生まれつき、歯と目だけはめちゃくちゃ健康で、20代後半になった今日まで、定期検診や抜歯以外、虫歯などの治療で歯医者に行ったことがない。その当時も、虫歯は一つもなく見事に健康だった。

 

 キャバクラなどにいける年齢でもない10代の自分にとって、その都市伝説以降、もはや歯医者は「合法的におっぱいを当ててもらえる施設」という風に脳内で映っていた。

もともと歯医者に馴染みがないこともあり、結構本気でそう思っていた。根拠はないけど、本気で思ってるんだと『粉雪 / レミオロメン』状態だった。(奇しくもレミオとかかっている)

 

 それからというもの、歯医者に行くきっかけを作るために、ワザと、夜寝る前にあっまーいチョコを食って歯を磨かずに寝てみたりした。

それでも、毎日朝晩と歯磨きをして口腔環境を清潔に保ってきた身としては、心地が悪すぎて、結局夜中の2時ぐらいに起きて歯磨きをしにいった。ワザと虫歯になるなんて出来なかったし、する意味がなかった。今思うとゾッとする。健康なままで良かった。

 

 そして、そこまでする目的は「合法的におっぱいを当ててもらう」だ。この時は高2だったが、中2の頃の(以前書いた)エロみじの話から一切成長していないことがわかって頂けるだろう。

032 エロに翻弄されて惨めになった話を聞くのが好き(後編) - やなせ京ノ介の好きなことを好きなだけ話すブログ

 

3.

 それから一年ほど経ったある日、「合法的におっぱいを当ててもらう施設」に行く理由がなく意気消沈していた僕の身体に変化が起こった。

 寮で昼ごはんを食べている時に、奥歯に何か違和感を感じたのだ。

数週間その違和感を放置していたが、徐々に拭えなくなり、奥歯で物が噛めないぐらい痛くなってきた。

 

 寮で同部屋だった相澤にその事を相談すると、どうやら「親知らず」というものらしい。

当時(今もだが)べらぼうに世間知らずだった僕は、親知らずの存在を知らなかった。「親知らず・知らず」だった。もはや言うまでもないが、その時は、奥歯の後ろからもう一つ永久歯が生えてきて、歯列を圧迫している状態だった。

 

 …ということは…?念の為、相澤に確認すると「歯医者に行くしかないね」とのことだった。

普通の人より経験がないぶん、もちろん歯医者に行くことの恐怖はあった。ただ、その恐怖の中に5%ぐらい(結構な割合だな)合法エロに対するワクワクが立ち上るのを、たしかに感じていた。

 

 善は急げとその週末に予約をして歯医者に行った。歯医者に行くことに対してあんなに色めきだっていたのは、後にも先にも10代の、都市伝説に脳を侵されていた僕ぐらいだろう。行くべきだったのは歯医者じゃなくて脳外科だったかもしれない。

 

 行った歯医者は、そもそも施術自体の腕が悪いのか、かなり痛かった!!口の中を器具でかき回されるのがあんなに不快だとは…何か先の曲がった器具で、ゴリッゴリっとされる度に、頭蓋にその音が響き「頭蓋骨って普段からあるんだよなあ」と改めて存在を認識せざるをえなかった。

しかも、麻酔が1週間ぐらい残り続けて、その間片方の口がずっとブヨブヨな感覚だった。

 

 更に、結果として施術中、一度もおっぱいが当たらないという三重苦だった。あれだけ楽しみにしていたのに…厳密には二重苦なのだが、僕の頭が悪いことで、一つ思い込みの苦が発現し、三重苦が実現する形となった。

 

 そんなこんなで、僕の歯医者施術初陣は、あれだけ信じていた都市伝説が打ち砕かれる形で、ほろ苦のデビュー戦となった。

(続きます)